-日本人は話下手と言われていますが、いかがですか。
大正大学で学生さんに教えていると、最初は緊張しているのかあまり話もしないのですが、「こんなことはどうですか?」と問いかけると、楽しそうにお話をしてくれるんです。ですから若い世代は話好きで上手な人が増えているように思います。また年配の方は、日本人の美徳としてあまりしゃしゃり出ない方がいいという考えがあるのかも知れませんが、基本的には話上手な人が多いのではないでしょうか。
外国人に比べて日本人が話下手だと言われるのは、断定せず「〜だと思います」といったあいまいな言い方を多用することが原因のひとつだと感じます。また自国の文化についてあまり知識がないので、日本のことを語れないということもありますね。
-なぜ断定的な話し方ができないのでしょうか。
外国では幼稚園の子供でも自分の意見を人前で発表し、それに対して、私は賛成、僕は反対と言うような教育がされているようですね。日本では、意見はあまり言わないでみんな一緒に仲良くしましょうね、といった風潮ですから、話し方にも違いがでてくるのでしょう。また日本人は、「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」を重要視する風潮がありますが、欧米では「誰が」ではなく、その人が「何を」言ったかという点を重視します。その辺りにも、ずいぶんと文化の違いが見られますね。
-会話の技術だけでなく、内容が大切なんですね。
ええ、その通りです。ところが、竹内一郎氏の『人は見た目が9割』(新潮新書)という本がベストセラーになっているように、実は会話の内容はあまり重視されていないという統計もあるんです。アメリカのメラビアンという心理学者が、初対面の第一印象はボディーランゲージが55パーセント、話し方が38パーセント、そして話の内容は7パーセントというデータを発表しています。つまり相手の表情や服装、髪形、手振り身振り……。会話の内容よりもむしろそういった外見上のことが記憶に残るようですね。
また話し上手であるためには、実は聞き上手であることも大切なんです。「傾聴力」という言葉をお聞きになったことがあるかも知れませんが、企業などでも聞く力の必要性が問われています。今、日本実践話力検定の合格を目標とした講座を担当していますが、その中にリスニングという項目があるんですね。人の話をテープで流し、それに関する問いについて答えるのですが、リスニングの点数が低い学生はスピーチの点数も低い。明らかに相関関係があります。第一に相手の言うことをきちんと把握し、その後に自分が言いたいことを表現する、これが話し上手になるコツだと思います。つまり話し上手は聞き上手なんですね。
-そういえば、人前で話すことが苦手で聞き役に徹していた営業マンが、「あの人は話し上手だ」と言われ、営業成績もよかったというエピソードを聞いたことがあります。
しゃべっていないのにあの人は話し上手だと言われてしまう(笑)。モノを売りたい時にはついつい「これは素晴らしいんですよ」と言いがちですが、そういう人よりも相手の話を聞く人の方が営業成績がいいというような実例がいくらでもありますね。
-聞き役に徹するのですね。
ええ。例えばタレントの黒柳徹子さんは、たくさんしゃべっていらっしゃるように見えますが、トーク番組を見ていますと相づちを打っているだけのことが多いんです。「それでどうなりましたか」とか「それは大変でしたね」とか、相づちのバリエーションをたくさん持つことも、聞き上手になる秘訣ですね。
-アナウンサーのお仕事で、失敗談などはありますか。
敬語に関する大失敗がありました。一般の方にクイズを出すイベントで、「みなさんの中に正解者がおります」「また正解者がおります」と連呼してしまったのです。その時私は「おります」が正しい敬語だと思っていたんですね。すると五問くらい終わったところで先輩アナウンサーが飛んできて、「大平さん、『おります』は駄目。お客様なんだから『いらっしゃいます』でしょ」と注意されました。もう冷や汗をかいて、発した言葉を取り戻したいと思いました。
-そんな失敗談もあるようですが、先生は子供の頃から話し上手でいらっしゃったのですか。
いいえ。人前でしゃべるのは本当に苦手でした。小学校四年生の頃、朝礼の当番で「こんな忘れ物があります」といったことを発表するんですが、声が出ないんですね。すごく小さな声しか出せなくて、教室の後ろの方から先生に「おい、聞こえないぞ」と叱られたこともありました。
-するとどうしてこんなに話し上手になられたんですか。
六年生の国語の授業で朗読をしたんです。それがとてもうまくできて、先生にも級友にも褒められました。それまでモノをしゃべって褒められたことがなかったので、自分にとって人前でしゃべるということはコンプレックスだったのですが、褒められたことで「できるじゃない、私」と自信になったんですね。この経験が、ひとつの転機になったのではないかと思います。
-ところで先生は、カラーコーディネート、カラーセラピストのお仕事もされていますね。色彩に興味を持たれたのは、なぜでしょうか。
実はアナウンサーになりたての頃、知的に見えるようにと思い、紺やダークグレー、黒、茶色など地味な色の服ばかり着ていました。するとモニターの方々の評価が非常に悪いんですね。新人でフレッシュなはずなのに、老けて見えるとか元気がないとかやる気がなさそうだとか。そんなことが二ヶ月くらい続き、ある時、服とメイクの色が悪いのではと思ってピンクや赤など明るい色の服を着るようにしたら、モニターの評価があっという間に変わったんです。人柄も話術もまったく同じなのに(笑)。そんなことがきっかけで色の勉強を始めましたが、人間は外見だけでなく内面から輝かなくてはと思い、さらに色彩心理も勉強しました。
-着ている服の色で、声の出方なども違いますか。
違いますね。例えば赤い色はエネルギーを高めたり積極性を出してくれたりといった作用がありますから、ロケが何日も続いて疲れている時などは、明るい色の服を着るようにします。色彩の効果は、自分自身の外見と内面に影響するだけでなく、相手の方にも影響を与えるんです。ですから人と人とのコミュニケーションにもぜひ色彩のパワーを取り入れていただきたいと思っています。